試用期間と労働契約 社会保険労務士 中家延子


2回目は、「試用期間と労時契約」について取り上げたいと思います。

1.試用期間とはどういう期間か
新たに雇入れた従業員について、本採用に際して、一定の期間を定め、その期間中にその従業員の資質、能力、性格、人物等について評価し、従業員としての適格性の有無を判断して、本採用にするかどうかを決定する一定の期間を試用期間といいます。
(1) 試用期間の法的性質
労働関係の法的性質については色々な説がありますが、大きく分けると次の2つとなります。

  • 試用契約を本契約とは別の契約をする
  • 本契約は試用契約の段階で成立するが、試用期間中は本契約とは少し異なる労働関係が存在する

(2) 試用期間の長さ
趣旨、目的に照らして一定の期間の設定に合理性が認められなければなりません。したがって、試用期間が従業員の適格性の有無を判断するのに必要な期間をこえるような長期間の場合は、試用期間としての合理性を欠き、公序良俗に反し無効となります。
試用期間の具体的な基準というものは特になく、業種や職種などによっても異なるでしょうが、2〜3ヶ月としているところが一般的ですが、試用期間中は本採用後に比べると解雇が比較的容易となります。採用後に問題が明らかにもあることがありますので、6ヶ月程度期間をおいてもいいでしょう。   
(3) 試用期間の延長
就業規則等で試用期間を延長する旨の規定をおいたとしても、それだけで試用期間の延長が無制限にできるわけではなく、延長することにそれなりの理由があるかどうかが問題になります。試用期間を延長する理由があるときとは、所定の試用期間だけでは従業員としての適格性が判断できないような事情が試用期間開始後に新たに発生したり、判明したときで、本人の同意が必要です。
(4) 本採用拒否
試用期間中の雇用関係の法的性質が、予備契約である場合は、本採用拒否は本採用契約を締結しないことですが、解除条件付契約または解約権留保付契約である場合には本採用拒否は解雇に該当し、解雇の法律が適用されます。
試用期間中の雇用契約の法的性質についてはいろいろな説がありますが、通説・判例では、従業員としての適格性に欠けると会社が判断したときは解約できる旨の解約権がある労働契約が成立しています。正社員の場合よりも広い範囲で解雇の自由が認められており、解雇に合理的な理由があり、社会通念上相当として認められている場合に解雇が正当とされます。
しかし、労働基準法では試用期間中の者であっても採用から14日をこえて引き続き使用されている場合には、30日前に解雇の予告をする、または予告手当ての支払をしなくてはなりません。
(5) 試用期間についての就業規則の定め
試用期間についての就業規則の定めは、会社の実態に応じた事項を定めますが、一般的には次の事項を定めておきます。 

  • 試用期間の長さ
  • 試用期間の短縮・延長の有無
  • 試用期間中の待遇
  • 従業員としての不適格または適正と認めたときの措置
  • 試用期間経過後の取扱
  • 勤続年数通算の有無


2.労働契約とは
従業員は会社の指揮命令に従って労働力を提供し、使用者はそれに見合った対価を支払うことを約束する契約を労働契約といいます。
端的に表現すれば、会社が従業員を一定の賃金と一定の労働条件で雇入れる際にかわされる契約で、労働基準法の適用を受ける雇用契約です。
雇用契約であっても、労働基準法の適用事業でない事業所に雇用される場合、同居の親族のみを雇用する場合、家事使用人の場合などは、労度基準法の適用がありませんから、労働契約ではありません。
民法は、『契約自由の原則』で、契約は当事者間で誰と、どのような内容にするかなど自由に結ぶことができますが、労働契約は『契約自由の原則』を適用すると、社会的な力関係から、従業員が使用者の従属下におかれることになります。そこで、労働基準法は、従業員が一方的に不利益を受けないために労働条件を定め、労働契約で労働基準に達しない労働条件を定めても、その部分については無効とされ、労働基準法で定める基準によることとされています。

(1)労働条件の明示事項 
労働契約を結ぶ際に労働条件を明示しなければなりません。

以下の事項は書面によって必ず明示しなければならない。

  • 労働契約期間に関する事項
  • 就業場所と従事する業務に関する事項
  • 始・終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定、計算・支払方法、賃金締切日・支払時期に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)


以下の事項は必ずしも書面による必要はなく、口頭による明示でもよい。

  • 昇給に関する事項
  • 退職手当に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金、賞与及び最低賃金に関する事項
  • 労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

どの程度明示すべきかについては特別の規程はありませんが、立法趣旨にかんがみ、従業員が理解できるように具体的かつ詳細にされるのが望ましいでしょう。