契約を結ぶ際の留意点 弁護士 小田 宏之

1 はじめに
私達が社会生活を送る上においては、日々、他者(他社)との「契約」を通じて、自己(自社)の利益や欲求等を実現しています。例えば、書店で本一冊を購入することや、取引先との様々な取引など、全て契約であり、これら契約の実現により、社会生活が成り立っています。
そして、このような契約社会であるがゆえに、契約を巡るトラブルは日々無数に発生します。
そこで、今回は、かかる「契約」を結ぶにあたっての留意点や、不本意な契約を結んだ場合の白紙撤回の方法等について、若干の紹介をさせて頂きたいと思います。

2 口約束だけでは不都合が生じる理由
そもそも契約は、原則として(諾成契約の場合)、口約束だけでも成立します。例えば、1億円の不動産であっても、それを「売ります」「買います」と口頭で約束すれば、その時点で売買契約が成立するのです。
しかし、このような口約束では、お互いの「思い違い」が生じる恐れがあり、また、約束の詳細を定めて後々まで正確に記憶しておくことなど殆ど不可能です。
そこで、契約内容をその詳細も含めて明確にするとともに、契約内容が後々まで記録として残るようにするため、契約書等を作成するのです。

3 契約書の内容を十分確認すること
契約書を作成する際に注意すべき点は、①抽象的な言葉や、何通りも解釈が成り立ちうる言葉は極力使用しないこと(例えば「その他、Aが必要と判断した場合」などの文言)、②分からない言葉(文言)や条項があった場合は当事者間でよく確認しあって理解すること、などが挙げられます。
結局、「内容がはっきり分からないまま契約書に判子を押す」ということの無いように、くれぐれも注意して下さい。

4 契約を「白紙撤回」できる場合
ところで、不本意な契約等をしてしまった場合でも、例外的に、契約を「白紙撤回」出来る可能性があります。
①契約締結に際して契約内容等に重大な誤解(錯誤)があった場合には、誤解したことについて「重大な過失」がある場合を除き、契約の無効を主張することが出来ます。
例えば、有名な画家の絵画と信じて購入したところ、その絵画が偽物であったような場合です。
②詐欺・強迫されて契約を結ばされた場合には、契約を取り消すことが出来ます。
③契約内容が違法または社会一般通念上不当(公序良俗違反)である場合には、契約の無効を主張することが出来ます。
例えば、法定利率以上の高金利を支払う契約や、極めて高額の違約金を定めた場合などです。
④ 「クーリングオフ」ができる場合。
特定の商品等の訪問販売等においては、商品やサービスの申込者は、一定期間に限り、何らの理由もなく白紙撤回が出来ます。
⑤ その他、消費者契約法など特別法の規定によっても、契約の無効や取消を主張できる場合があります。
⑥ 法律の規定以外でも、当事者間において予め「白紙撤回」出来る場合を取り決めておいた場合には、その取り決めに従い、白紙撤回が出来ます。
例えば「手付金を放棄(又は倍返し)することで契約解除できる」と定めたような場合です。

5 まとめ
以上、ポイントのみ簡潔に説明させて頂きましたが、結局、契約の重要性に鑑み、
①契約内容の明確化・記録化を図ること
②契約内容を十分理解した上で署名押印することが大切であり
③仮に不本意な契約等であった場合でも例外的に無効や取消を主張することも可能

ですので、そのような場合には、直ぐに専門家に相談する等して必要な措置を講じて頂ければと思います。