先使用権制度 弁理士 野口富弘

本日は、先使用権制度というお話です。
開発成果である発明を保護するには、特許権を取得して他社の実施を排除することが重要ですが、その発明の内容は公開されます。一方で、発明の実施品から発明内容が類推できない技術、秘密にすることで他社の独自開発が困難な技術などを、ノウハウとして秘匿管理して保護する選択肢もあります。ノウハウとして秘匿する場合でも、安定的にその発明の実施を継続することができる先使用権制度についてご紹介しましょう。

Q
先使用権制度とは、どのような制度でしょうか?
A
他社の特許出願時以前に、同一内容の発明を完成させ、その発明(先使用発明)の実施である事業をし、又はその事業の準備をしていれば、他社が特許権を取得した場合でも、法律で定められた範囲内で、その事業を継続することが認められるという制度です。
他社から特許権侵害で訴えられた場合でも、先使用による通常実施権である先使用権が抗弁として認められれば、その事業を継続することが可能となります。

Q
先使用権が認められるには、何が必要でしょうか?
A 
まず、先使用発明が完成していることが必要です。具体的には、他社の発明の内容を知らないで自ら発明し、又はその発明をした者から知得した者であることの立証が必要です。先使用発明に至る研究開発行為、発明の完成を立証できるよう、研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書などの技術関連書類を証拠資料として残しておくことが重要です。
次に、先使用発明の実施である事業の開始又は準備の段階にあることが必要です。例えば、事業の準備、実施に至るまでの一連の事実を立証できるよう、事業計画書、事業開始決定書、見積書、請求書、納品書、帳簿類、作業日誌、カタログ、商品取扱説明書などの事業関連書類を証拠資料として残しておくことが重要です。
このように、先使用権が認められるためには、証拠資料を準備しておくことが大切です。まず、公証制度の利用(確定日付、事実実験公正証書など)があります。公証人に私署証書に確定日付を付与し、又は公正証書を作成してもらいます。例えば、証拠資料をまとめて袋とじして確定日付を取得する方法、弁理士又は技術に詳しい弁護士を立会人として、実験事実に基づいて事実実験公正証書を作成する方法があります。
また、民間タイムスタンプの利用があります。電子データに時刻情報を付与することで、その時刻にそのデータが存在し、変更・改ざんがないことを証明するサービスです。財団法人日本データ通信協会が認定する事業者がサービスを提供しています。
その他にも、電子データに電子署名を行うことで、データの作成者の証明が可能になります。地方公共団体又は民間の認証局などがサービスを提供していています。また、内容証明郵便により郵便物の内容の文書が確定日付に存在したことを証明することができます。